大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成7年(く)24号 決定

少年 N・S(昭和54.6.1生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年が提出した抗告申立書に記載されているとおりである。

少年の言い分は、自分は鑑別所で反省し、これからの事も考え、自宅に戻ってきちんとした生活をしていく自信がある上、自分がこれまで犯したのは窃盗事件2件だけであり、もっと沢山窃盗等で警察に捕まり、家庭裁判所に何回も呼ばれているのに鑑別所にすら入っていない知人がいるが、その人達に比べても、原決定の初等少年院送致処分は重過ぎて著しく不当ではないか、というのである。

そこで、記録を調査して検討する。

1  本件は、少年が、深夜高校1年生の友人と小山市内をうろつくうち、オートバイに乗って遊ぼうと考え、友人とともにアパートの駐車場から250CCのオートバイ1台(時価約30万円相当)を盗んだ、というものである。

2  少年は、原動機付自転車の窃盗事件で家庭裁判所調査官の指導を受け、平成6年3月22日審判不開始となったのに、それから1月もしないうちに本件非行を犯したものである。そのころ少年は、母親や学校側の指導に耳を傾けずに、学校に殆ど行かず、不良グループと交際しては夜遊びを繰り返していた。少年は、その後も自宅を溜まり場にして先輩や他校の不良仲間とともに乱れた生活を送り、シンナー吸引をするようにもなった。

本件非行について、平成6年11月21日第1回目の審判が開かれ、少年は、「〈1〉悪いことはしない、〈2〉学校に行く、〈3〉夜遊びはしない」という特別な約束をした上で、家庭裁判所調査官の試験観察に付された。しかし、少年は、登校するようにはなったが真剣に授業を受けず、学校の先生の指導にも反発し、翌12月には、校内で数人の同級生に暴力を振るう「いじめ」をしたり、先生からこの点の指導を受けると再び学校に行かなくなり、また、夜遊びや外泊もあった。同月26日、第2回目の審判が開かれた上、少年に対し観護措置が取られた。平成7年1月18日の第3回審判において、少年は、高校に進学したいという希望を述べたが、他方で、自分の性格などの問題点に関する審判官の質問に対し、指摘された問題点をことごとく否定するなど、自分の悪いところを改め、真剣にやりなおそうという態度はみられなかった。

3  以上のようなこれまでの少年の行動は、自分の置かれた立場や自分がかかえている問題点をよく考えない、自分勝手なものであって、少年の我がままな性質のあらわれということができる。また、学校の先生や母親の指導に反発し、気に入らないことがあると暴力を振るったり、何でも他人のせいにして反省をしない生活態度は、強がりでやっている面があるにしても、ふつうの中学生の生活態度とは遠くかけ離れたもので、知人の非行と自分の非行を比べてみて、自分が少年院送致となるのはおかしいなどと主張していること自体、周りの人々が少年の将来をどんなに心配し、立ち直ってほしいと思っているかということに考えが及ばず、いかに自分中心の考えにこり固まっているかを物語っている。

このように、少年の非行性は、学校や母親の指導の限界を越えており、少年に対しては、義務教育を終えるこの大切な時期にあたり、施設に入れて規則正しいグループ生活を送らせる中、自制心、内省力を養い、他人への思いやりを身に付け、健全な社会生活が送れるよう矯正教育を施す必要がある。原決定が少年を初等少年院に送致するとともに、少年の高校進学の意欲、本件非行の内容等も考慮して、併せて特修短期処遇の勧告を付したことはまことに相当であり、原決定の処分が重過ぎて不当であるとは認められない。

論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 高木俊夫 裁判官 吉本徹也 高麗邦彦)

処遇勧告書〈省略〉

〔参考1〕 抗告申立書

抗告申立書

抗告申立人 N・S

平成7年1月23日

東京高等裁判所 御中

私は平成7年1月18日宇都宮家庭裁判所栃木支部において初等少年院送致決定を言い渡されましたが別紙のとおり抗告を申し立てます。

(別紙)

僕は、窃盗事件2回で試験観察になりました。それから学校で僕が話しかけても無視する人がいて頭にきて殴ってしまいました。自分が悪いと思ったので親といっしょにその人の家にあやまりに行きました。あいての親もその人もゆるしてくれました。その事で審判をやりました。それで鑑別所といわれました。試験観察中だったので、しょうがないと思い、鑑別所で反省してこれからの事もかんがえていました。ちゃんと家に帰ってもやって行く自信があるのです。しかし審判で少年院に行ってもらうと言われました。

僕のしっている人で警察に10回ちかく窃盗などでつかまっていて家庭裁判所も6回ぐらい行った人がいます、その人は鑑別所すら入っていないのです。そういう人をなん人かしっています。何でそういう人たちが何もならないで自分は少年院なんですか。おかしくないですか。処分がおもすぎるのではないのですか。

平成7年1月23日

水府学院生

N・S

〔参考2〕 原審(宇都宮家栃木支 平6(少)323号 平7.1.18決定)〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例